著者の生まれ育った高千穂の風土を描ききった一冊だ。高千穂というと宮崎県の、延岡から東に5-60km、熊本県の阿蘇山との間の県境の険しい山合いの町で、天孫降臨の神話の舞台となった地でもある。だが著者の描く高千穂の時空は雄大だ。かつては九州の山岳地帯一帯の総称が高千穂であり、大和朝廷によって征服された鬼の末裔が高千穂の人々だという。だが鬼とされ、征服されてもなお高千穂の人々は尊皇の志を曲げなかった。それゆえに江戸時代、延岡藩の過酷な徴税によって度々一揆、逃散が起きている。滅多に米を食べることもできず、辛く苦しい、深い山と谷に隔てられた暮らしの中で継がれてきた神楽、唄の数々。今でこそ道路が整備され、谷には橋が架けられ、観光の町にもなったが、そんな開発の中で著者の祖母が呆けた。祖母は高千穂はどこだと問う。祖母の記憶にある、歴史と神話の中の高千穂に著者は行こうとする。血を吐きながら歌おうとする刈干切り唄の名人。木から木へ飛び移って中学に通った山頂の家の中学生。谷の底は霧が出る。山の上のこそが暮らしの場だった。粟や稗、猿や猪を食べて生き抜いてきた末裔たちが、今もなお大真面目な顔で神話の鬼と神々の争いについて語っている。谷底に流れる水の音、神楽の音色や歌、茅やススキを刈る時の刈干切り唄、男女の睦みあう声…様々な音や息遣いが聞こえてくるような、まさに高千穂の風土記だ。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
マーティン・イーデン ジャック・ロンドン, 辻井栄滋
もし本というものに生命力というパラメータが存在するとしたら、地球に隕石が降り注ぎ世界が荒廃に向かっても、この本は変わらず輝きを放ち続けていることでしょう。
労働者階級の男が、乾いたスポンジが水を …続きを見る
ILLUSTRATION 2014 SE編集部
毎号完璧で特に言うことがないです。目が幸せで、毎回新しい発見があり、世界が広がっていく。自宅用と職場用、二冊欲しい。ちなみに当然絶版で、Amazonで中古で買ったんですけど「株式会社コロプラ蔵書」って …続きを見る
フレームアームズ・ガール デザイナーズノート 島田フミカネ
プラモ屋に行くと置いてある、かわいい装甲女の子がパッケージに描いてある箱、ありますよね
フレームアームズ・ガールというシリーズもので、そのパッケージ画像と、開発者インタビューをまとめた本です
…続きを見る
ラクガキノート 窪之内英策作品集 窪之内英策
先日、BUMP OF CHICKENの東京ドーム公演に行ったんです。そのときにワンピース×カップヌードルのアオハルの映像が流れたんですね。で、「誰がこの絵を描いてるんだろう」と思ったんです。で、調べて …続きを見る
永い季節 しまざきジョゼ作品集 しまざきジョゼ
しまざきジョゼさんの画集です。しまざきジョゼさんの絵は、人物が風景のひとつだからいい。あざとさがまったくないイラストが大衆から支持を得ているというだけでしまざきジョゼさんがいかにすごい人かと思う。
…続きを見る
ソンブレロ落下す―ある日本小説 リチャード・ブローティガン, 藤本和子
アメリカ人のユーモア作家と日本人女性との恋を描いた小説。アメリカ人のユーモア作家というのはおそらくブローティガン本人で、ここに書かれていることも大部分が本当なのでしょう。
めちゃくちゃエロいです …続きを見る
アメリカの鱒釣り リチャード・ブローティガン, 藤本和子
村上春樹のオススメ本シリーズ。
とんでもなく面白かったですねえ。
日記、エッセイ、空想、小説……小説?
小説なの?
詩人であるブローティガンの文章は幻想的だ。
また、日本人にはできない言 …続きを見る
365daysまいにち東京 RETRIP
2年前に買って積んでました。関東近郊のプレイスポットを1日1ページ1スポット、365日で365ページ365スポットを紹介している本です。私、東京在住なんですけど、全然東京を知らなくて。この本に出てくる …続きを見る