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2021/02/12
カルトという言葉は一度も出てこないが、カルト宗教にはまってしまった家族を題材としている。なぜ出てこないかというと、中学生に成長していく主人公・ちひろがそう認識していないからだ。
叔父がちひろの両親を説得しようと試みたり、姉が家出をしてしまっても、あくまでも筆致はそれらをぼんやりと受け止めるちひろの視点から描かれており、ほのぼのとすらしている。が、物語が始まってすぐに両親が宗教にはまってしまい、ちひろが学校でいじめられたり、引越しをする度に家が小さく、親の服装が貧相になっていく様を読み進めるうちに、読者は言い知れぬ不安を覚えてしまうに違いない。
そしてカルト宗教の2世は、組織に逆らったり入信を拒否したらどうなってしまうのか…明らかにされていないが、ちひろの目から見ても何かあまり良くないことが起きそうなのはうかがい知れる。
今村夏子は、主人公の狭い視野から世界を見ていく描写が抜群にうまい。物語はちひろが高校受験をする前の、宗教施設での宿泊行事で終わる。高校に進学し、世界が広がっていくであろうちひろの未来が良いものであるようつい祈ってしまう、そんな読後感の残る小説だった。芦田愛菜主演で映画化もされている。監督も大森立嗣なので期待できそうだ。
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