著者はこれまで日本各地の民俗について調査してきた、在野の民俗学者だ。漂泊民のサンカ、「青」の地名と葬送、アイヌ語の地名や牛や馬にまつわる習俗などについて調べ、まとめてきた。その著者が、上京してから住み続けた野田、柏を起点として近くを流れている大河・利根川をテーマに選んだ。幕末に書かれた赤松宗旦の「利根川図誌」と、赤松の同郷の利根川沿いに明治維新後に移り住んだ民俗学者・柳田国男の記述をベースに、21世紀の利根川について描こうとしている。範囲は狭いようで広く、広いようで狭い。茨城県南部と千葉県の北部、そして栃木県の古河やや埼玉県の栗橋などにわずかにかかる、いずれも利根川水系の流域だ。
記述は茨城県南部、赤松と柳田国男にゆかりのある利根町から始まる。このあたりは豊かな穀倉地帯だと思っていたが、柳田国男が移ってきた1880年代は地域一帯が貧しかったらしい。恐らくは利根川の舟運による貨幣経済の浸透、もしくは飢饉や洪水の繰り返しで、暮らしが立ち行かなくなっていたのではないか。柳田が「二児制」、つまり男女1人ずつの子供しかいないと遠慮がちに指摘しているのは、生んでしまった残りの子供を全て間引きしていたことだという。
そうして地名や、事件、過去の出来事を描いて利根川沿いを遡上していく。中でも我孫子市の地名で峠をビョウと読むのは、澪標(みおつくし)のつくし、つまり標識、榜示(ボウジ)といった意味で、村境の峠にしるしを立て、それをビョウと呼んだという話には説得力があった。同じように坂東市の法師戸も、村境の榜示だという。また利根川や江戸川を挟んだ東西にも同一の地名があったり、面白い逸話には事欠かない。
今では寂れた関東郊外の集落といった感じだが、野田市を茨城、埼玉と隔てる利根川や江戸川には、とても栄えた河岸、港があった。だがそれらは堤防の改修工事、つまり大きな堤防を築くことで、暮らしと利根川が隔てられ、流通も船から鉄道、自動車に移り廃れていった。それは下流も同じだ。わずかに佐原の町並みが小江戸として往時の繁栄が残されているが、木下(きおろし、文字通りここから木材や薪を出荷していたらしい)や安食(あじき)、水郷・潮来(いたこ)は寂れて久しい。ちなみに筆者は潮来のイタは、古い日本語で潮流が押し寄せることを意味し、静岡の伊東市や福岡の糸島市も、もしかしたらそういう意味かもしれないと連想している。鹿島、香取といった神社や銚子の港町までたどり着き、終わる。
実は評者もこの利根川沿いに暮らし、何度も川を渡ったり、下流や上流に行ったり来たりしている。ごく身近な地域について書かれていたため大変面白く読めたが、誰が読んでも利根川流域の暮らしや習俗について詳しく知れる一冊になっているはずだ。
ちなみにこれも余段だが、表紙の写真は利根川ではなく、その南の沼がメインに写っている。ここを選んだのも筒井功ならではの視点だろうと考えると、撮影地点がわかった瞬間に嬉しさがこみ上げてきた。
いま、日本でいちばん「心の欲しいものリスト」に入れられている本
もしくはいま日本でいちばん中身をチラ見されている本
チラ見して、素敵だけど…とちょっと考えて、お金に余裕がある時に買おうという結論に …続きを見る
毎号完璧で特に言うことがないです。目が幸せで、毎回新しい発見があり、世界が広がっていく。自宅用と職場用、二冊欲しい。ちなみに当然絶版で、Amazonで中古で買ったんですけど「株式会社コロプラ蔵書」って …続きを見る
全21巻から成るアーサー王物語の、アーサー王に関するエッセンスだけを抜き出して文庫1冊にしたのがこの本です
ということを最後の訳者あとがきに書いてました
アーサー王という存在はFGOで知ったく …続きを見る
日本でも大ヒットして、ドラマ化もされましたね
とにかく泣けるって情報だけ知ってて、アルジャーノンって女の子が死ぬ話なのかなって思ってました
めちゃくちゃおもしろかったです
面白かった本に …続きを見る
部屋の本が好きです。古くは都築響一さんの『TOKYO STYLE』や『賃貸宇宙』から川本史織さんの『女子部屋』まで。部屋の本はだいたい買っちゃう。
それと最近、家を建てたい欲が強くて。ドアノブひとつ …続きを見る
読んだ第一印象としては「ハリポタみたいだなあ」でした
もちろんこっちのほうが古いんだけどね
『ゲド戦記』といえば日本ではジブリの映画が有名で、その映画がつまらないことも有名で、それと同時に語られる …続きを見る
文・林雄司さん、絵・ヨシタケシンスケさん
webやぎの目テイスト満開といいますか、面白さのテイストが『死ぬかと思った』とか『デイリーポータルZ』です
フフって笑っちゃうような本なのに、
たし …続きを見る
近藤聡乃さんが2011年から2012年にブログに書いていた文章を書籍化したもの。もちろん書籍化される前提で書かれたものではなく、ファンに対しての近況報告だったり、近藤聡乃さん個人の備忘録に近い。
だ …続きを見る
高いよKADOKAWA!
3960円!
128ページ!!
しぐれういという、5万部間違いなしの2024年を代表する超人気作家に対して足を引っ張る価格設定
中村佑介みたいに30万部いくポテン …続きを見る