島原の乱を扱った大著だ。島原半島の地名や農民の名前、そして松倉家の苛政や凶作が描かれ、読みにくいかもしれない。だが読み進めるうちに、天草や島原に住んでいる農民たちはかつて朝鮮半島にまで戦に出かけた武人や海外に渡航して貿易に従事した者も多く、それらが刀を捨てて農民となっていたこと、そしてキリシタン信仰を密かに守り続けていたことがわかっていく。そしてそうした村に広がる伝染病で幼い子供達が死んでいき、ついに農民たちが武装蜂起する。この本では島原の乱の象徴・天草四郎は脇役である一方で、乱に加わった民衆たちの戦いぶりが見事だ。幕府軍はただ城を囲み時間稼ぎをするしかない。また、島原半島の土豪と長崎の医師や商人たちの対比もいい。住む場所が少し違うだけでこれほど暮らしや人生に差があったのかと考えさせられる。「出星」の意味は、最後になってわかる。
ちなみに余談になるが日本におけるジャガイモ250万トンの生産量のうち、約75%が北海道だが、意外なことに長崎県が約4%と、日本第2位の生産量を誇っている。そのほとんどの生産地がこの小説の舞台となった島原半島で、雲仙普賢岳のに広がる米作には適していない火山灰土で、海外からもたらされたジャガイモが生産されている。そしてその地に住む多くは、島原の乱の後に全国から移住してきた人々だ。
また戦国時代最大級の国際貿易港だった口之津には、今では全国に4つある国立海上技術学校の1つがあり、中学を卒業した若者を船員として育てており、卒業した彼らは1年の多くを船の上で過ごす。江戸時代を経てなお船員の出稼ぎで稼ぐこの地を見ると、コメの年貢のみに財政を頼り、それをこれほど大きな乱のあった後も改めなかった江戸の閉ざされた幕藩体制を考えずにはいられない。