/
2021/05/17
山妣と書いて、やまははと読む。いわゆる山姥(やまんば)の物語なのだが、2段組で約500ページと分量がかなり多い。舞台は明治末期になっても江戸時代と変わらぬ暮らしが続く、越後の豪雪地帯。しかも季節は鳥居までもが雪に埋もれる冬。方言や昔の習俗など読みにくいところも多いが、東京からやってきた舞台役者の若者が両性具有だとわかり、庄屋の若女将との密通が発覚するあたりから、一気に物語が展開していく。特に、第2章に入ってからは一気に読み進めてしまうだろう。農村から山に入ったところには、かつて鉱山があった。借金を背負い、死ぬまで働かされる遊女と鉱夫、そしてふとしたことがきっかけで起きる事件、かかわっていく秋田マタギ…山妣の過去が明らかになり、舞台役者の現在と重なる。貧しい小作人の元に生まれた瞽女とその妹、そして医者にかかることもなく死んでいく彼女たちの母…貧乏に耐え、それを跳ね除けようとする壮絶な女の生き死しにと男たちの熊狩りが交差するラストは圧巻だ。農村の暮らしや村芝居、女郎や山の民の生き様など全ての描写にリアリティがあり、実際に起こった出来事をみているように思える。雪に覆われる山のように、山は人間の善悪や愛憎、掟や罪などすべてを包み込んでくれるようだ。直木賞受賞も納得の一作。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
Like a balance life 村田蓮爾
村田蓮爾さんの初の画集です。漫画もすこしだけ載っていて、そこからは寺田克也さんや大友克洋さんのDNAも感じます。
1997年に発売された画集なのに古さを感じさせない世界観は、時代を反映したものではな …続きを見る
POPEYE 2021年 5月号 [普段使いの東京案内。] POPEYE
これは素晴らしいよ! ポパイの東京特集を読むたびに、数年前に出た「東京に友達が来たら君はどこに連れていくか」という切り口が最高だったな~って思ってたんだけど、今回の切り口もそれに匹敵するくらい素晴らし …続きを見る
キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち ペネロープ・バジュー, 関澄かおる
はじめて女性用水着を作った人や、はじめて性転換手術を受けた女性、世界ではじめて女性医師になったひとなど、それほど知られてはいないけど世界を変えたすごい女性たちをまとめた伝記マンガ。
選出が「知る人ぞ …続きを見る
世界のアーティスト250人の部屋 人生と芸術が出会う場所 サム・ルーベル
いま、日本でいちばん「心の欲しいものリスト」に入れられている本
もしくはいま日本でいちばん中身をチラ見されている本
チラ見して、素敵だけど…とちょっと考えて、お金に余裕がある時に買おうという結論に …続きを見る
続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 J・ウォーリー・ヒギンズ
先日投稿した本の新刊。もちろん、最高な写真は前刊で全部使われてるので、1.5軍くらいの写真が中心になってくるんだけど、減点法で点数をつけるより加点法で点数をつける人生でありたい。
路面電車の写真が多 …続きを見る
ロッキング・オン・ジャパン 2020年1月号 ロッキング・オン・ジャパン
アジカン・テナー・ELLEGARDENのナナイロツアー座談会があまりに尊かったので購入。美しいですね。
問題はBUMP OF CHICKENのツアーレポートなんですよ。MUSICAはファイナルを、ジ …続きを見る
私は今、旅をしています。 さけハラス
さけハラスさんの商業初画集。日本の観光名所に行って、その風景と、オリジナルの少女のイラストを合体させる、っていう感じの画集です。
で、絵だけでストーリーを想起させる説得力があるのに、今回の画集に書き …続きを見る