/
2022/09/22
歴史小説の名手が描く、港町を舞台にした人情もの。主人公は戦国武将や歴史人物ではなく、宿屋で働く娘だ。口減らしで奉公に連れてこられた。場所は備中笠岡。かつては賑わっていたが、河川の土砂が堆積し、大型の船が泊まりにくくなってからは往時の賑わいはない。幕末、時代が混迷していく中、主人公の志鶴は口減らしで売られてきた悲しみを乗り越え、懸命に働いている。港町の登場人物も魅力的だ。女郎屋から身請けされ、宿屋を持ち切り盛りしている美人女将、その女将に想いを寄せる町の親分、石工や船乗りたち。長岡藩士・河井継之助や京から落ち延びてくる長州藩士などもやってきて、次々に事件が起き、鮮やかに、時に悲しい結末をもって一編が終わる。激動する時代のうねりが小さな港町に生きる庶民にも押し寄せてくるが、それらを乗り越え、ひたむきに笠岡で働く主人公に魅了されてしまう。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
占領下の女性たち 日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」 平井和子
先日読んだ『占領と性』にめちゃくちゃ打ちのめされまして
あの本は「研究の半ば」ということを書かれていて、その後の研究はどうなったんだろうと『占領と性』を書かれた恵泉女学園大学平和文化研究所を調べても …続きを見る
古文書返却の旅――戦後史学史の一齣 網野善彦
著者は日本中世史の学者・網野善彦。といっても、日本史学の本流である政治史ではなく、中世から近世にかけての漁民や流通に従事した名もなき人々や、寺社の清掃や牛馬を扱う人々などを研究していた、言ってみれば異 …続きを見る
日本ロングトレイルガイドブック JAPAN LONGTRAIL GUIDEBOOK ロングトレイル協議会推薦ガイドブック 山と溪谷社アウトドア出版部
点数をつけるなら80点だけどトレイルに対する知識がなさすぎるので暫定で
先日読んだグランマ・ゲイトウッドの本に完全に触発されて、山を歩きたい! と思って読んでみました
日本にもいっぱいロン …続きを見る
ULTRA GRAPHICS 1999-2009 ウルトラジャンプ10周年記念画集 ウルトラジャンプ編集部
ウルトラジャンプの創刊号から十周年までの表紙画やピンナップイラストをまとめた本。
でもけっこう歯抜け。1/3くらいしか載ってない。
でも各作家の画集にすら収録されてない絵があったりとけっこう貴重で …続きを見る
From Tokyo わたしの#stayhome日記2022-2023 今日マチ子
コロナ禍の日々を切り取った、今日マチ子さんの作品集の第3弾。
2022年から2023年の4月まで。
2023年6月現在、コロナはまだ日常に残っていますね。
街中では、マスクをつけている人6割 …続きを見る
いのうえの 満月篇 三日月篇 井上雄彦
2008年に行われた「井上雄彦最後のマンガ展」の図録。先日の井上雄彦本を読んで、井上雄彦熱が高まったのでメルカリで購入。メルカリは便利だ。出品のハードルが低いから、これまで埋もれていた商品がいっぱいで …続きを見る