「川崎市中1男子生徒殺害事件」をきっかけに川崎の不良や在日といった暗部と、そこから這い上がり連帯する人々を描いた「ルポ川崎」の著者・磯部涼が、登戸の殺傷事件、それに触発された元農林水産省事務次官による長男殺害事件、そして過去最悪と言われる死傷者を出した京都アニメーション放火殺傷事件、さらに「上級国民」「高齢者ドライバー」といった問題を世間につきつけた東池袋自動車暴走事故という、平成から令和に改元された、わずか3ヶ月間で起きた事件を題材にしたノンフィクション。
「ルポ川崎」ではヒップホップ音楽で活躍しているグループへの深い知識とリスペクトから、川崎という街や人々に共感していく過程が書かれていたが、4つの事件を追っていく中で、磯部は社会の分断、高齢者介護と引きこもりの8050問題、それら改革の先延ばしと機能不全に直面し、明確な答えが見出せないまま困惑していく。
特にネットでもテレビのタレントコメンテーターでも盛んに主張されるようになった「迷惑をかけるな、一人で死ね」や「自己責任」といった論調をとりあげ、平成の長い不況の中で世間の価値観が変わっていったことを描いていく。
著者は安易な解決方法や改善案などを提示せず、冷静に、抑制的に事態を観察していく。4つの事件とそれに対する世間の反応をそうして描いただけでも十分に読み応えがあり、それぞれの犯人が住んでいた地域も筆者と縁のある場所が多かっただけに、ロードサイドや住宅街の風景が匂いたってくるようで、考えさせられた。
表紙から文中にたびたび挟まれる山谷佑介の写真も見応えがあった。
/
2021/03/29