氷平線

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2022/02/04
「ホテルローヤル」で直木賞を受賞した桜木紫乃の、デビューから間もない頃の短編集を集めた1冊。作家が住んでいた北海道の東部、道東を舞台にした作品が多い。もちろん全て舞台は北海道だ。
表題作はオホーツク海に面した小さな港町から飛び出した青年と、港町に残された女の話だ。女は親の都合で祖父の住む、この小さな港に連れてこられたらしい。中学生だというが学校に行っている気配はない。身体を売っているという噂が流れてきた。それから数年後、酒乱の父親と対立した男は、大学受験の直前に女の家に飛び込む。女を抱き、いつかここから連れ出すと誓った。その後、男は東大に合格し、岩見沢の税務署長として10年ぶりに北海道に帰ってくる。そして、再び小さな港に戻り…というあらすじだ。
他にも、牧場の跡取りを産ませるためにフィリピン人妻をあてがわれた男や、牧場に嫁いできて、姑に子作りを監視されている妻の話など、閉塞感のある暮らしと悲しい性愛、たくましい生き様が描かれている。和裁や理容、歯科医など、手に職をもった人たちが多く出るのも特徴だ。本州などと違って移民と少数民族だけで出来上がった大地での生き様だからだろうか。悲しいが、どこか達観しているというか、清々しくもある。
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