日刊ゲンダイに連載された、巨乳グラビアで業界を席巻した芸能事務所・イエローキャブの野田義治社長の評伝。もっとも終戦の翌年に生まれた本人はまだまだ元気で、芸能界でも健在だ。
すでに何度も本人が話していたり、映画化(!)もされている有名なエピソードも多く、特に前半は不遇の時代、独立しても資金がなかった野田社長が、あの村西とおる監督と働いているエピソードが多い。というか、著者の得意フィールドである村西とおるとその周囲にいたスタッフや女優の話ばかりで少し辟易するかもしれない。
AVを身近で見てきた野田は、所属タレントを雑誌グラビアで水着にさせることはあっても、脱がしたり、ヘアヌードにさせずに、テレビでは安易に水着にさせず、バラエティやドラマに出して、芸能人として大成させていった。その手腕はやはり業界でもトップクラスだ。芸能界で働いてきたとはいえ大手芸能事務所の系列でもなかった、弱小事務所から始まったとは思えない快進撃だ。
その野田社長にも芸能界事務所社長として活躍する前、長い雌伏の時代があった。まだ戦後の混乱が残る物騒な新宿・歌舞伎町のジャズ喫茶でアルバイトしてた頃のエピソードは強烈だ。そこから芸能界に足を踏み入れ、夏木マリ、いしだあゆみ、朝丘雪路といった名だたる女優の付き人を経験する。時代はバブル前夜、地方都市の巨大なキャバレーを回れば一晩で100万円、今の金額で400万円もギャラがもらえたという。当然、稼業の男たちとも接触するが、歌舞伎町時代からその筋との交渉は日常だった。そうした経験がその後も水着を嫌がるタレントを説き伏せる交渉術や、スキャンダルを撮りたがる週刊誌との交渉に役だったのだろう。今と違って人前で水着になりたがる女性がほぼいなかった時代、野田はセクハラ・パワハラと自嘲するようなやり方で強引に仕事を進めていくが、結果として野田がマネジメントしたタレントは女優、タレントとして大成功している。かとうれいこ、細川ふみえ、雛形あきこ、山田まりや、佐藤江梨子、小池栄子、MEGUMIと、男なら誰もが知っている女性タレントばかりだ。
最後の方に、野田と一緒に仕事をしてきたマネージャーや山岸伸、野村誠一という一流カメラマンや、かとうれいこが野田について語っているのが本書の特徴かもしれない。
そもそも80年末から90年代にかけてのグラビアブーム、グラビアアイドルブームとは雑誌印刷技術やカラーフィルム、カメラ・レンズの質の向上という技術面の進化とともに、グラビアアイドルを要求した団塊ジュニア世代という大きなボリュームがあり、それに野田社長率いるイエローキャブのグラドルが応えた、という面がとても大きい。当時まだ若い青年たちにとって村西とおるらが作り出したAVは刺激が強すぎ、当時普及してきたコンビニに並べられた雑誌の巻頭グラビアが手に取りやすく、妄想を抱きやすかったのだ。野田の語るグラビア論も何度もメディアに出ているが、今なお性の本質というか、雑誌グラビアというメディアを通した異性への眼差し、被写体としての女性の心理などは本質を突いている。
野田社長本人が仕事に誠実で、誠意を持っていろんな人に接し、タレントを育成させることに情熱的なことが伝わってくる一冊だ。そしてそんな野田社長をもってしてもタレントの男関係は見抜けないと諦めているところなど、男女論、芸能論としても面白い。
後半など、誤字脱字が目立ったのが少し残念だった。