実話誌を中心にノンフィクションの分野で活躍する本橋信宏が、街をテーマに書き上げた連作ルポルタージュの1作目だ。鶯谷というとやはり風俗の街なので、そうした街ができた経緯から、実際に韓デリで働く若い女性、ソープの従業員や取材記者、どころか入り込んでソープ嬢の講習までしていたという伝説の編集者や、性を売る人妻たちの生々しい肉声が綴られている。それだけで終わらず、正岡子規や本橋がこよなく愛する江戸川乱歩、寺山修司などの鶯谷にゆかりのある作家のエピソードが綴られている。街の住人たちの仕草や身なりを観察し、話しかけて声を聞き、名物を味わい、縄文の海進でできた低地の時空を探っていく。人妻たちが明け透けに語る半生は、やはり売春をしているせいもあるのだろうが、性とカネ、欲望が折り重なっていてリアルだ。新左翼の風俗批判や、80年代当時の島田紳助のソープ突撃レポートなど、かつてのエピソードも、第一線の記者として人々の話を聞き込んできた著者にしか書けない。そう考えると、人妻たちの話には更に裏のつながりもあるんじゃないかと思わせられる。実際、東電OLと同僚だったという嬢の話もある。
風俗街に生きる人々の声がきこえてくる一冊だ。最後、韓デリの女性と再会するエピソードの読後感がとてもいい。
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