/
2021/08/13
桜木ワールド全開のエンタメ小説だ。カルーセル麻紀の青春時代を描いた「緋の河」、怪我によってステージから降りたストリッパーがショーパブ経営を経て復活する「裸の華」など、夜の歓楽街を舞台に数々の作品を出してきた桜木紫乃が今回選んだのは、まだ好景気が続いている昭和50年の道東・釧路。そこで一番と謳われるキャバレー「パラダイス」で働く若者が主人公だ。キャバレーの寮で気ままに寝起きし、たまに母親ほどの年齢のホステスたちとくっついては離れている。そんなところにショーの出演者がやってきて、若者と一緒に暮らしていくというあらすじだ。3人の出演者は、いつもマジックを失敗してばかりの冴えないマジシャン、ごつい見た目とハスキーな美声のブルーボーイ、年齢不詳の関西弁のストリッパー。この強烈な3人と年末年始の1ヶ月ほどを過ごしていくうちに、ギャンブル狂いのまま亡くなった父親、釧路を出て行った母親を思い出しながら、若者はまるで家族と過ごしていくような感覚を覚えていく。若い男が主人公というのも珍しいし、いつになく多弁な4人の掛け合いのような会話が面白いが、この作品にも共通しているのは職能によって生計を立てている男や女の生き様だ。まさに「芸は身を助ける」といった感じで、長年磨いた芸をステージで披露し、暮らしを立てていく3人はたくましい。安普請の寮の中まで氷点下になるような冬の釧路での、人肌の温かい物語だ。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
少女・ネム 増補版 HIROSUKE KIZAKI MEMORIAL EDITION 木崎ひろすけ
数年前にマンガ編集者のトークショーに行きまして。阿佐ヶ谷ロフトA系の。そこでコミックビームの奥村編集長に「これまで出会ったなかで一番の天才漫画家は誰ですか」みたいな質問が飛びまして。奥村さんの回答が木 …続きを見る
気化熱 ダイスケリチャード作品集 ダイスケリチャード
ダイスケリチャードさんの初画集。奥付見たら7刷いってました。すごい。
ダイスケリチャードさんの絵は人物と背景が同じ力量とトーンで描かれているのがいいですね。人物が浮かない。人物もこの空間を構成す …続きを見る
藤田幸久式モデリングマニュアル―雑多えんたあていめんと。 藤田幸久
先日読んだU井T吾さんのルーツが藤田幸久さんの描かれていた『プラモのモ子ちゃん』にあると知って、藤田幸久さんの本を読んでみました。
『プラモのモ子ちゃん』は版権の関係か書籍化されておらず、藤田幸久さ …続きを見る
日本の歴史をよみなおす 網野善彦
日本で差別が生まれたのは何年からなのかとか、昔の日本人はほぼ農民だと思われていたけどそうではなかったとか、女性の地位が低かったのは大正~昭和だけだったとか、日本でお金の流通が始まったのはいつからだとか …続きを見る
Cornelius 30th Anniversary Set ばるぼら, cornelius
コーネリアスの写真集、ヒストリーインタビュー、コーネリアスが1000曲を選出したプレイリストに基づくインタビューで構成されいてる30周年記念ライブのパンフレット
インタビュアーはばるぼらさん
イン …続きを見る
夜と霧 ヴィクトール・E・フランクル, 池田香代子
アウシュビッツに送られた精神科医が、アウシュビッツという場での人々がどういうふうに精神に異常をきたし、どのような過酷な目に遭い、どのように生き延びてきたかを綴った本
アウシュビッツからの生還者の …続きを見る