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2021/08/13
桜木ワールド全開のエンタメ小説だ。カルーセル麻紀の青春時代を描いた「緋の河」、怪我によってステージから降りたストリッパーがショーパブ経営を経て復活する「裸の華」など、夜の歓楽街を舞台に数々の作品を出してきた桜木紫乃が今回選んだのは、まだ好景気が続いている昭和50年の道東・釧路。そこで一番と謳われるキャバレー「パラダイス」で働く若者が主人公だ。キャバレーの寮で気ままに寝起きし、たまに母親ほどの年齢のホステスたちとくっついては離れている。そんなところにショーの出演者がやってきて、若者と一緒に暮らしていくというあらすじだ。3人の出演者は、いつもマジックを失敗してばかりの冴えないマジシャン、ごつい見た目とハスキーな美声のブルーボーイ、年齢不詳の関西弁のストリッパー。この強烈な3人と年末年始の1ヶ月ほどを過ごしていくうちに、ギャンブル狂いのまま亡くなった父親、釧路を出て行った母親を思い出しながら、若者はまるで家族と過ごしていくような感覚を覚えていく。若い男が主人公というのも珍しいし、いつになく多弁な4人の掛け合いのような会話が面白いが、この作品にも共通しているのは職能によって生計を立てている男や女の生き様だ。まさに「芸は身を助ける」といった感じで、長年磨いた芸をステージで披露し、暮らしを立てていく3人はたくましい。安普請の寮の中まで氷点下になるような冬の釧路での、人肌の温かい物語だ。
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