既刊5刊 連載中 (2020年5月2日時点)
このサイトでは、「作品は最終回を見てこそ評価が決まる」という想いから、完結した作品のみをレビューしてきました。ですがそれだと、連載中の作品を応援できないし、特集も組めないしで、完結に拘ることのデメリットのほうが圧倒的に多いなあと思い、連載中の作品もレビューしていくことにしました。
僕はけっこう、漫画の表紙買いをするタイプでして。映像研も表紙買いをした一冊です。
僕の一番好きな漫画は『それでも町は廻っている』なのですが、『映像研』の表紙を見たときに、それ町を感じたのです。
その直感は大当たりで、映像研の主人公の浅草みどりは、それ町の主人公の嵐山歩鳥に似通った部分があると感じました。
映像研がすごいのは、全方位にフックがちりばめられているところです。
キャラクターやストーリーはもちろん、
主人公たちの台詞回し、
説得力バツグンの空想メカ、
水と緑とレトロと未来が共生する世界、
アニメーション的なコマ割りと表現、
どれもかなり個性的です。
どれかひとつを抜き出しても一級品なのに、映像研を構成するすべての要素が一級品に達しているのが、この漫画の素晴らしいところです。
キャラクターに魅力を感じる人、世界観に魅力を感じる人、新しい表現に魅力を感じる人、あらゆるフェチズムを夢中にさせる要素がこの漫画に詰まっているのです。
映像研には、空想上のメカがたびたび出現します。
それらはご都合的なメカではなく、この世界に在るための必然性が図解によって担保された形で出現します。
宮崎駿は漫画版ナウシカで、空想上の機械であるメーヴェの機構や、ナウシカの装備の必然性を図解で説明していますね。
ドラゴンクエストではキャラクターデザインを鳥山明さんが担っています。
ドラクエ11の主人公は剣を背負っています。ディレクターが発注した剣と鞘をそのまま描くと、奇妙な動作、説得力に欠ける動作になってしまう。
だから鳥山明さんはディレクターの発注をくみ取りつつ、違和感のない形に剣と鞘を描き換えました。
すると、剣の収まりもいいし、動きも自然になるし、主人公が剣を持つ説得力も増す。
そういった、超一流の人たちだけが表現によって生み出すことができる説得力を、
連載開始当初23歳だった大童さんがごく自然に身につけているのが、
この漫画が多くの人に評価されている最大の理由だと思うのです。
日本の漫画は世界の最高峰で、表現もストーリーも設定も出尽くしたと誰もが思っていたけれど、
アニメーターという別の表現を目指していた人が漫画界に新たな風を吹き込みました。
だから漫画にはまだまだ新たな表現手法があることに誰しも衝撃を受けたし、
これから多くの漫画が大童さんの表現手法を咀嚼してまったく新しい表現を生み出すことでしょう。
『映像研』は漫画史のターニングポイントとして語られるのは間違いないと思える、
全方位に魅力が詰まったとてつもない作品です。