RADWIMPSのレーベル担当・東芝EMI渡辺雅敏さんがRADWIMPSのスタッフダイアリーに綴っていた日記を書籍化したもの。
どうやってレコード会社がアーティストを獲得するのか、どうやってCDをショップに置いてもらうのか、という行為を初めて読んだ気がします。
本を書店においてもらう方法は漫画家さんがツイッターにときどき上げていたりするし、作家を獲得する方法は職業柄知っていたりする。
作家を獲得する方法は、とにかく早く声をかける&いい条件を提示する。これに尽きる。
例えば作家がジャンプに思い入れがあったら、多少条件が悪くても集英社に行くし、逆にジャンプが嫌いだったらどんなにいい条件でも集英社に行くことはない。
集英社であこがれの人が働いていたり、付き合いだったりで決まることもある。
RADWIMPSも10社以上のレコード会社の争奪戦を経てEMIに決まるんだけど、大物アーティストの口説き方なんて読んだことなかったもんね。
ミスチルやバンプもこういった競争があったんだろうな。面白い。
そして、CDショップに商品を置いてもらうための戦略や、リリース時に地方地方のラジオなどに出演する理由やCDショップを巡る理由なんかも載っていたりして新たな発見がたくさんある。楽しい。
この本の主役は野田洋次郎で、如何に野田洋次郎が素晴らしい存在か、破格の才能の持ち主かがまるで聖書のように綴られている。
そのなかで、野田洋次郎は嘘がない、という一文がある。
確かに彼の「おかずのごはん」にいたるまでの作品には嘘がないし、表現者として行き着くところまでいっている。
でも、その「嘘がない野田洋次郎」を褒め称えるために、嘘に塗れた本を出す、という行為には賛同できない。
嘘に塗れた、というと語弊があるな。
野田洋次郎は一切を包み隠していないのに、この本は隠し事ばかりだ。綺麗事ばかりだ。
もちろん、この本はRADWIMPSのサイトに掲載された文章をもとにしているから、ファンを不快にさせることや不安にさせることを書いていけないのはわかる。RADWIMPSメンバーを不快にさせることも関係性を悪化させることも書いてはいけない。だけどこの本の作者は、それ以外の一般読者に「RADWIMPSではなく著者自身が」好かれようとしているのが気になる。50歳くらいのおじさんがいまさら誰に好かれようというのだ。
RADWIMPSの不純なエピソードはなく、都合の悪いエピソードは大幅にカットされ、聖人君子集団のように扱われている。
それは野田洋次郎の「表現者としての業」と真逆のことをやっているのではないだろうか。