著者は現在、武蔵野の国立ハンセン病資料館で学芸員をしている木村哲也。彼が全国を旅した民俗学者・宮本常一の足跡を追っていった記録だ。訪れた時期は木村が学生だった90年代が多いが、それから改めて取材している地域もある。訪れた場所は、米の穫れない山間の村や離島が多い。
例をあげると、岐阜県石徹白、高知県四万十川、月灘、沖の島、瀬戸内の二神島、佐合島、北海道利尻島、福島県大内、三重県志摩などだ。いずれの地域も過疎化が進んでいる。だが宮本が訪れた戦前戦後は、明治後の人口増加のせいもあるだろうが、そうした地域に実に多くの人たちが暮らしていたことがわかる。そしてそれらの地域は、例えば白山信仰の参詣客で賑わっていたり、北前舟の寄港地として栄えていたり、豊かで、全国の様々な地域と交流が盛んだったことがわかる。
著者は数十年前に宮本が取材したことやしなかったことを改めて整理して、現在の各地域の様子や、これからについて調べていく。そして、後書きにも書いてあるように、我々がなんとなく抱いている常識や先入観を覆していく。さらに、過疎に直面している旅した地域を、宮本のように繋げあい、活性化させていこうとしている。
どの地域も訪れるのは容易ではないが、一度は訪れたくなる。そんな本だ。
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