/
2023/12/06
本書は私小説であり、私小説を辞書で引くと「作者自身の経験や心理を虚構化することなく、そのまま書いた小説」とあります。
私小説に限らず小説全般においてもっとも難しいのが「そのまま書く」という点です。
自分のことが風呂も入ってなくて悪臭がする、ということを表現したいときに、汚物のように臭いだとか、電車で周りから人がいなくなるとか、どうしても人は脚色してしまうものです。モノを誉めるときの常套句の「控えめに言って最高」とか、小説書きからしたら興ざめするようなクソダサ文章なわけです。
汚さ、不潔さを西村賢太が書くとこうなります。
朝勃ちした竿に指で角度をつけ、築100年の年中悪臭がする共同便所で尿を放ち、手も洗わずタオルケットに腹這いになり、ハイライトをふかす。昨日と同じ汗臭いTシャツを着てジーンズを履き、汚れたままの作業着が入った紙袋を掴んで家を出る。
リアル。そのまま。脚色もなにもなく、でも主人公の汚さはありありと伝わってくる。
その描写力と、主人公のどうしようもなさがすごい。性格が悪すぎてクズすぎる。読んでて嫌な気分になる。でもそれをすべてさらけ出せる西村さんがすごい。人生小説家ともいうべき。クズの人生なのに打ちのめされる。勝てない。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
Essential わたしの#stayhome日記 2021-2022 今日マチ子
描くことは祈り
2020年4月の緊急事態宣言以降、ソーシャルディスタンスが当たり前になっていく人々の様子、街の様子を、丁寧に、静かに描き続けている今日マチ子さん。
2021年4月ー20 …続きを見る
ポップス歌手の耐えられない軽さ 桑田佳祐
はじめて桑田佳祐の書く文章を読みました
桑田佳祐ほどの大物なら語り起こしかライターが書いた文章だろうな、と思っていたらガチで桑田佳祐さま御本人が執筆されていることを奥様が証言されていてびっくりしまし …続きを見る
HERE ヒア リチャード・マグワイア
『バーナード嬢曰く。』という読書マンガがありまして。作者がSF読みだからSFの本ばかり紹介されるんですけど、このリチャード・マグワイアの『HERE』は絵本みたいで読みやすい、とのことだったので挑戦して …続きを見る
最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか ジェームズ R・チャイルズ, 高橋健次
チェルノブイリだったり、スリーマイルだったり、チャレンジャー号だったり、人類史に残る最悪の事故はどのように起きたのか、事故が起こるまでなんの対策もされていなかったのか、どんな予兆があり、逆にだれも問題 …続きを見る