/
2023/12/06
本書は私小説であり、私小説を辞書で引くと「作者自身の経験や心理を虚構化することなく、そのまま書いた小説」とあります。
私小説に限らず小説全般においてもっとも難しいのが「そのまま書く」という点です。
自分のことが風呂も入ってなくて悪臭がする、ということを表現したいときに、汚物のように臭いだとか、電車で周りから人がいなくなるとか、どうしても人は脚色してしまうものです。モノを誉めるときの常套句の「控えめに言って最高」とか、小説書きからしたら興ざめするようなクソダサ文章なわけです。
汚さ、不潔さを西村賢太が書くとこうなります。
朝勃ちした竿に指で角度をつけ、築100年の年中悪臭がする共同便所で尿を放ち、手も洗わずタオルケットに腹這いになり、ハイライトをふかす。昨日と同じ汗臭いTシャツを着てジーンズを履き、汚れたままの作業着が入った紙袋を掴んで家を出る。
リアル。そのまま。脚色もなにもなく、でも主人公の汚さはありありと伝わってくる。
その描写力と、主人公のどうしようもなさがすごい。性格が悪すぎてクズすぎる。読んでて嫌な気分になる。でもそれをすべてさらけ出せる西村さんがすごい。人生小説家ともいうべき。クズの人生なのに打ちのめされる。勝てない。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
幻覚剤と精神医学の最前線 デヴィッド・ナット, 鈴木ファストアーベント理恵
幻覚剤やMDMAがうつ病をはじめとする精神病の特効薬かもしれないよ、という本
著書をもう少し調べないと全面的にこの本を信頼できないけれど、非常に面白く読みました
この本が出てからNHKでうつ病と幻 …続きを見る
夏への扉 ロバート・A・ハインライン, 福島正実
SF不朽の名作
冷凍睡眠とタイムトラベル
1970年代に冷凍睡眠した男が、2000年代に目覚める話
SFって難しすぎるのが、敬遠されがちないちばんの理由だと思うんですね
2020年代に読ん …続きを見る
宮本常一 写真・日記集成 宮本常一
宮本常一が記録した写真と、彼が綴った日記のすべて
1900~1970年代の日本の民族史のすべて
これが買えるというのは奇跡だと思うよ、本当に
写真の力は偉大だ
宮本常一の残した本たちは …続きを見る
ヨシタケシンスケ スケッチ集 デリカシー体操 ヨシタケシンスケ
ヨシタケシンスケさんのイラスト集。この本が発売されたのは2016年だけど、中で載っているのは2000年頃のイラスト。時系列だと、この本に載っているイラストが一番古いです。自費出版で冊子にしていたのをま …続きを見る
form l code 村田蓮爾第三画集 村田蓮爾
笑っちゃうくらいデカいですね。置き場に困るほど。
リングノートみたいに、輪で閉じてある画集です。特殊な構造だから本にダメージを与えずに読むのがすごく難しいです。
定価は1万円超だけど、内容的に …続きを見る
利根の変遷と水郷の人々 鈴木久仁直
利根川は言うまでもなく関東一円、神奈川県以外の関東中から水をあつめ、太平洋に流れる流域面積日本一の河川だ。その利根川について書かれた本だ。内容は大きく分けて2つに分かれる。江戸時代の東遷事業と、近代の …続きを見る