文章がうまい人は、何を書いてもうまい。
村上春樹は小説が素晴らしいのはもちろんのこと、エッセイも面白いし、東京ヤクルトスワローズのホームページに書いた小話ですらも面白い。
同じように、何を書いても面白いなあ、という人がいる。それが『ダムヤーク』の著者である佐川恭一氏だ。
私が佐川恭一氏のことを知ったのは、WEBで目にした「『クソデカ文芸時評』文庫版あとがき(カラタニ)」という文章だった。
『クソデカ文芸時評』文庫版あとがき(カラタニ)
https://hametuha.com/etude/46362/
この世のありとあらゆる単語を、これまで誰もが結びつけなかったであろう言葉で修飾し、これまでの自分の読書経験が焼け野原と化していくような読了感に震えた。
佐川恭一を知って以降、氏のTwitterをフォローし、小説すばるに掲載される氏の短編を読んでは、天才だなあ、としみじみ思った。
既刊2冊には相当なプレミア(2万円!)がついており、おいそれと手が出せるものではなかった。
まだ、小説すばるに掲載される短編と、「『クソデカ文芸時評』文庫版あとがき」だけでは、あのプレミア価格に手を出す勇気が出なかった。
そんな、佐川恭一の文章に飢えていたタイミングで発売されたのが本書『ダムヤーク』である。
舞台も文体もテイストもバラバラの6つの短編集。
いろんな人間の一生が質量30ページ、体感200ページの密度で駆け抜けていく。
ナンセンスといってしまったらそれまでの世界。だけれども予想だにしていないところへ物語がドライブしていく。この、予定調和が一切ない感じがたまらない。
面白い時間はあっという間にすぎるけれど、人の一生だとか重要な決断に立ち会ったなあという気持ちになる。
長編小説を読んだらどうなってしまうんだろうか。