/
2022/09/22
カルーセル麻紀の青春時代を描いた「緋の河」の続編となる小説。大胆な虚構を構築したであろう前作と比べると、今作は華々しいデビューを飾ってからのゲイボーイの伝記というか、どうしても実在の人物の行動録みたいになってしまい、小説らしい虚構に欠ける感じもする。物語の舞台が虚構そのもののような芸能界だからかもしれない。冒頭、モロッコでの性転換手術が失敗しかけるあたりも生々しく、読み辛かった。クセのあるマネージャーや東京の芸能界と地方のショーパブ営業がまだ密接だった頃の景気のいい様子、藤圭子のような女性歌手も出てきて面白いが、登場人物たちの行動が説明臭く感じるところもあった。とはいえ、昭和の時代にこのようなマイノリティとしての生き様をメディアを通じて見せつけてきた苦悩や葛藤、そしてそういう環境で闘い、生き続けるしかないという、バイタリティ溢れる主人公の生き様は本当なのだろう。モデルとなった主人公の存命中にこのような小説が生まれてきてよかったと思う。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス, 小尾芙佐
日本でも大ヒットして、ドラマ化もされましたね
タイトルだけ見て、泣けるって情報だけ知ってて、アルジャーノンって女の子が死ぬ話なのかなって思ってました
めちゃくちゃおもしろかったです
面白 …続きを見る
窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子
日本で一番売れた本ですね。(800万部。ノルウェイの森は日本で250万部、世界で1200万部です)
どんな内容かまったく知らなくて、「黒柳徹子さんの幼少期のことが書かれているんだろうなー」くらいで読 …続きを見る
anna magazine Vol.4 anna magazine
みんな大好きアンナマガジンです。この号は2014年に発売されたこともあって、今のアンナマガジンのカラーとは全然違いますね。昔のPOPEYEっぽい。フォトジェニックな写真を撮ろうとしている。フォトジェニ …続きを見る
愛のゆくえ リチャード・ブローティガン, 青木日出夫
リチャード・ブローティガンのなかでももっとも長く、小説らしい作品。
巻末に高橋源一郎さんのコラムが載っていて、高橋さんはブローティガンのなかでもこの『愛のゆくえ』が一番好きらしい。
舞台は図書 …続きを見る
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&Mシリーズ 森博嗣
多くの人が「面白かった小説」として挙げる『すべてがFになる』を読みました。すごい面白いんだけど、西尾維新のほうが面白いなあーと思ってしまった。
これは、森さんが理系の人だからだと思う。
すごく面白 …続きを見る
黄昏の王国 Lostbelt No. 6 : Fae Round Table Domain, Avalon le Fae 羽海野チカ
羽海野チカさんが手掛けたFGOのキャラクター・オベロンが産まれるまでを描いた同人誌。自費出版本。
ひとつのキャラクターを産み出すだけなのに、ひとつのキャラクターを産み出すことの大変さが質量となって現 …続きを見る
冷酷 座間9人殺害事件 小野一光
ノンフィクションライターによる、大量殺人事件の犯人との面会と裁判ルポ。面会はある日唐突に終わってしまったし、裁判の傍聴は高倍率だったため実際はほとんどできてなかったと著者は書いているが、十分に考えさせ …続きを見る
古文書返却の旅――戦後史学史の一齣 網野善彦
著者は日本中世史の学者・網野善彦。といっても、日本史学の本流である政治史ではなく、中世から近世にかけての漁民や流通に従事した名もなき人々や、寺社の清掃や牛馬を扱う人々などを研究していた、言ってみれば異 …続きを見る