著者の生まれ育った高千穂の風土を描ききった一冊だ。高千穂というと宮崎県の、延岡から東に5-60km、熊本県の阿蘇山との間の県境の険しい山合いの町で、天孫降臨の神話の舞台となった地でもある。だが著者の描く高千穂の時空は雄大だ。かつては九州の山岳地帯一帯の総称が高千穂であり、大和朝廷によって征服された鬼の末裔が高千穂の人々だという。だが鬼とされ、征服されてもなお高千穂の人々は尊皇の志を曲げなかった。それゆえに江戸時代、延岡藩の過酷な徴税によって度々一揆、逃散が起きている。滅多に米を食べることもできず、辛く苦しい、深い山と谷に隔てられた暮らしの中で継がれてきた神楽、唄の数々。今でこそ道路が整備され、谷には橋が架けられ、観光の町にもなったが、そんな開発の中で著者の祖母が呆けた。祖母は高千穂はどこだと問う。祖母の記憶にある、歴史と神話の中の高千穂に著者は行こうとする。血を吐きながら歌おうとする刈干切り唄の名人。木から木へ飛び移って中学に通った山頂の家の中学生。谷の底は霧が出る。山の上のこそが暮らしの場だった。粟や稗、猿や猪を食べて生き抜いてきた末裔たちが、今もなお大真面目な顔で神話の鬼と神々の争いについて語っている。谷底に流れる水の音、神楽の音色や歌、茅やススキを刈る時の刈干切り唄、男女の睦みあう声…様々な音や息遣いが聞こえてくるような、まさに高千穂の風土記だ。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 J・ウォーリー・ヒギンズ
この間投稿した『GHQカメラマン~』をAmazonで検索したら、この本がおすすめ欄に表示されて、面白そうだなーと思って購入。いやもう最高です。
アメリカ出身のヒギンズさんが軍属として来日して、休暇に …続きを見る
アウシュヴィッツ収容所―写真ドキュメント
先日、ゲルハルト・リヒター展に行きまして。そこで『ビルケナウ』って新作が公開されていて。その作品が強制収容所の作品だったのですよ。
隠し撮りみたいな写真で、まさに収監者を殺そうとしてる場面で。
よ …続きを見る
ラクガキノート 窪之内英策作品集 窪之内英策
先日、BUMP OF CHICKENの東京ドーム公演に行ったんです。そのときにワンピース×カップヌードルのアオハルの映像が流れたんですね。で、「誰がこの絵を描いてるんだろう」と思ったんです。で、調べて …続きを見る
歴史の中で語られてこなかったこと おんな・子供・老人からの「日本史」 網野善彦
歴史学者・網野善彦の晩年の対談集。民俗学者の宮田登との3度にわたる対談を収録している。原著は1998年に出たもので、2012年に新書、2020年に文庫として3度も刊行されているところを見ると、根強い読 …続きを見る
占領と性: 政策・実態・表象 恵泉女学園大学平和文化研究所
性ってどこかタブー視されているし、インターネット時代になってからは性の排除がより加速している
性に関する記録は埋もれていく
日本は8月15日を終戦記念日としているけど、
実際には1952年4 …続きを見る
ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で ジョン・M・マグレガー, 小出由紀子
点数をつけるのが不可能
ヘンリー・ダーガーはもちろん存在は知っていましたが、はじめてその作品を見ました
孤高のアーティストという響きだけを聞くと、その作品になにか神秘的なものを感じてしまうけど …続きを見る