パライゾとはポルトガル語で楽園・天国を意味し、隠れキリシタンが崇めたところだ。幕末から20世紀半ばにかけての土佐の民俗を、宮本常一と思しき学者に人々が話すところから物語がはじまる、7つの短編集で、表題作は、維新後、隠れキリシタンであることを公にしたところ、新政府にとらわれ、土佐に流罪にされて牢屋暮らしをしている男が主人公だ。いつまで経っても棄教しないキリシタンたちに戒律を破らそうと、村の顔役たちは遊女をけしかける。だがその中には武家に生まれながら遊女となった娘もいて、彼女はその身の上からかキリシタンの唱えるオラショ(祈祷)に惹かれていき…というあらすじだ。他にも、南方の海で息子が戦死してしまい、ふいに軍神の母となった女が嵐の翌日、朱色の石が詰まった棺のような漂流物を見つける話や、船乗りたちのむせるような男の臭いに当てられ、つい庭で放尿したところを見られてしまった船宿の女将の話、盲目の男が女2人とまぐわう話…世間や時代に抑圧されながらも明け透けでしぶとくたくましい女たちの性が語られる。切なく、悲しい結末を迎えるものもあるが、そこまでの悲壮感はない。むしろ作者が後書きに記しているように、必死に生きてきた名もなき庶民の声を集めたものだ。ある出来事が語り継がれるうちに誇張されていったり面白おかしくなっていったり、そうした民話のようなものを極めて巧みに創作していて、描かれる時代背景とともに読み応えがあった。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
ラクガキノート 窪之内英策作品集 窪之内英策
先日、BUMP OF CHICKENの東京ドーム公演に行ったんです。そのときにワンピース×カップヌードルのアオハルの映像が流れたんですね。で、「誰がこの絵を描いてるんだろう」と思ったんです。で、調べて …続きを見る
阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし 阿佐ヶ谷姉妹
6畳1Kにコンビで二人暮らししている阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ。ミホさん、エリコさんのエッセイが交互に掲載されています。だからミホさんのエッセイがエリコさんのエッセイに対するアンサーになっていたり、エリコ …続きを見る
BRUTUS特別編集 合本・居住空間学 COLLECTION BRUTUS
部屋や家、インテリアの本が好きです。BRUTUSの家本ならまあ間違いはないですよね。casa BRUTUSっていう建築だけの雑誌もやってるし。楽しく読みました。いいなあ~憧れるなあ~って。
ただね、 …続きを見る
Like a balance life 村田蓮爾
村田蓮爾さんの初の画集です。漫画もすこしだけ載っていて、そこからは寺田克也さんや大友克洋さんのDNAも感じます。
1997年に発売された画集なのに古さを感じさせない世界観は、時代を反映したものではな …続きを見る
POPEYE 2021年 5月号 [普段使いの東京案内。] POPEYE
これは素晴らしいよ! ポパイの東京特集を読むたびに、数年前に出た「東京に友達が来たら君はどこに連れていくか」という切り口が最高だったな~って思ってたんだけど、今回の切り口もそれに匹敵するくらい素晴らし …続きを見る
定本ライブハウス「ロフト」青春記 平野悠
ライブハウス・ロフトの立ち上げから1984年のロフト解散宣言までをロフトプロジェクトの創業者である平野悠さんが綴った本。日本のロックの夜明けであり、ライブハウスのはじまり。先日読んだ『渋谷音楽図鑑』と …続きを見る