江戸時代末期、高知県の山間部の農村を舞台に、狗神憑きとみられる集団ヒステリーが起きた。踊り狂うのは、いずれも貧しい小作人ばかり。その狂乱の推移が村の娘みつと庄屋の老旦那、そして派遣された武士たちの目線で描かれるミステリー、ホラーといった小説だ。狂乱の原因とされたのは狗神憑きだったと言われるが、憑かれた者たちは途中から狸が憑いていると言い出したり、結局のところはなんだったのか最後までわからない。だが江戸幕府が200年以上続いたにも関わらず、農村の人々が貧しいまま、土地に縛り付けられていたことが事件の一因になっていたのではないかと、国学者平田篤胤を慕う下級武士を通じて作者は語っている。というのも、信じられないようなこの事件は、実際に土佐の山中で起きており、それが複数の史料に書かれていると作者ははじめに書いており、その事件がなぜ起きたのか、作家ならではの想像力、飛躍力をもって当時の事件を再構築しているのだ。農民の貧しい暮らしぶりや、決まった時刻に毎日集団で狂い出す様などが写実的で、庄屋や下級武士たちの苦悩も今とそんなに変わらない。小作人たちが餓死するほどの飢饉が、米がほとんど穫れない山中の村にまで及んでおり、その劣悪な暮らしから逃れようとしたり、一揆を起こしたり、果ては尊皇攘夷思想が階級を問わず広がっていく様子が描かれる。狗神憑きや村八分、俗信や噂に満ちた山村でありながら、明治維新後、土佐出身の自由民権運動理論家・植木枝盛は同じ土地を「自由は土佐の山間より出づ」と讃えた。そうした時代の転換期に起きた、「ええじゃないか」の乱舞にも通じるような事件を描写した小説だ。
1996年に亡くなった司馬の、94年の冬と夏の旅をまとめたもので、最晩年のエッセイになる。街道をゆくはこの後、三浦半島記と絶筆となった濃尾参州記のみで、一連のシリーズの中でもかなりの厚みがあり、それだ …続きを見る
衝撃
誰の文体にも似ていない
自由
地球規模のゆらめき、量子規模のゆらぎ、若者の心情を並列に直結させ2023年に最大の輝きを放つ言葉で東京の日常を綴る
これ、僕が田舎住みの学生時代に憧れた東京 …続きを見る
中世史の学者、というよりも当時の論壇のスター的存在になっていた網野善彦の論考や講演集。いずれも1980年から90年代半ばにかけてのもので、この本は1997年に出たから、ベストセラーになった1978年の …続きを見る
ルワンダ大虐殺を眼の前で見ていて、なにもできなかったPKO司令官の後悔記
なにもできなかったというのは、国連加盟国がルワンダという小国を救う必然性を見いだせなかったから
自国の兵士の命がアフリ …続きを見る