直木賞受賞作ということで読んでみたが、全体的に読みづらい文章だった。ところどころで偏見や差別、時代の荒波といった逆境を乗り越えようとする登場人物の熱のこもった描写も出てくるのだが、文献史料を丹念に調べて描いたんだろうなと、透けて見えてくるような感じだった。
樺太や極東ロシアを舞台に、文明とは、祖国、領土、民族、言語とは何かといった、19世紀から20世紀に勃興した帝国主義に翻弄される人々を描いているが、登場人物よりも著者そのものの奮闘ぶりが目についてしまう。終盤を読み進めている頃に文藝春秋の特設サイトをみたら、紙の登場人物紹介には載っていない大隈重信やレーニンについての記述があった。終盤までがネタバレしているのは興ざめする。無理やり直木賞に仕立て上げた印象が残る。
コレラや天然痘、結核などで次々と登場人物が亡くなっていく陰鬱な描写が出てくるが、史実に基づいている以上、実際に北海道などで明治時代に起こったことなのだろう。新型コロナウイルスに襲われた2020年を先取りしているような感じがあった。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
サンソフト クロニクル CONTINUE編集部
世の中には「存在しているだけでいい」本があります
サンソフトという、世の中的にはそこまでメジャーではないゲームメーカーの歴史本です
『いっき』『アトランチスの謎』など、ファミコン世代なら聞いた …続きを見る
北のまほろば―街道をゆく〈41〉 司馬遼太郎
1996年に亡くなった司馬の、94年の冬と夏の旅をまとめたもので、最晩年のエッセイになる。街道をゆくはこの後、三浦半島記と絶筆となった濃尾参州記のみで、一連のシリーズの中でもかなりの厚みがあり、それだ …続きを見る
阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし 阿佐ヶ谷姉妹
6畳1Kにコンビで二人暮らししている阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ。ミホさん、エリコさんのエッセイが交互に掲載されています。だからミホさんのエッセイがエリコさんのエッセイに対するアンサーになっていたり、エリコ …続きを見る
ゴッホ作品集 フィンセント・ファン・ゴッホ, 冨田章
先日、東京都美術館で行われていたゴッホ展に行きまして、ゴッホがぶっ刺さりまして購入しました。
やはり本になってしまうと、生の絵のインクの盛り上がりが見えなくなるのが残念ですね。
画集の作品と生の絵 …続きを見る
西瓜糖の日々 リチャード・ブローティガン, 藤本和子
ここは地球かもしれないし地球ではないかも知れない。すべてが西瓜でできている世界の話。ブローティガンの詩の世界の話。建物も服もすべてが西瓜製。
2つのコミューンが、そこに集まる人々の微妙なバランス …続きを見る