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2023/12/06
本書は私小説であり、私小説を辞書で引くと「作者自身の経験や心理を虚構化することなく、そのまま書いた小説」とあります。
私小説に限らず小説全般においてもっとも難しいのが「そのまま書く」という点です。
自分のことが風呂も入ってなくて悪臭がする、ということを表現したいときに、汚物のように臭いだとか、電車で周りから人がいなくなるとか、どうしても人は脚色してしまうものです。モノを誉めるときの常套句の「控えめに言って最高」とか、小説書きからしたら興ざめするようなクソダサ文章なわけです。
汚さ、不潔さを西村賢太が書くとこうなります。
朝勃ちした竿に指で角度をつけ、築100年の年中悪臭がする共同便所で尿を放ち、手も洗わずタオルケットに腹這いになり、ハイライトをふかす。昨日と同じ汗臭いTシャツを着てジーンズを履き、汚れたままの作業着が入った紙袋を掴んで家を出る。
リアル。そのまま。脚色もなにもなく、でも主人公の汚さはありありと伝わってくる。
その描写力と、主人公のどうしようもなさがすごい。性格が悪すぎてクズすぎる。読んでて嫌な気分になる。でもそれをすべてさらけ出せる西村さんがすごい。人生小説家ともいうべき。クズの人生なのに打ちのめされる。勝てない。
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