/
2022/06/20
1840年、幕末までもう少しという時代、気仙沼で船乗りになった男は、荒天による漂流の末、南洋の離島に命からがらたどり着いた。島は江戸時代初期、小笠原諸島という名前がついた日本の領土ではあったが、無人島で、いつからか外国人が定住し、たまに寄港する船との取引で暮らしを立てていた。外国人たちは無人島をボニン・アイランドと呼んでいたのだった。漂流した船乗りたちはみな故郷に帰りたがり、必死で船を修復しようとするが、男は一人だけ、欧米系の白人たちや、その男たちに雇われて南洋の女たちと交わるうちに、故郷を偲びつつも、とある出来事がきっかけでついに島に定住することになる。そして現代、ふと祖父の持ち物だった木製の民芸品をフリーマーケットで見つけ、自らのルーツを探し始める男がいた。寡黙な祖父は八丈島出身だと聞いていたが、実は小笠原諸島に住んでいたのではないかと。男は勤め先を急に辞め、小笠原行きの船に乗り込む。そしてそこで知らさせる、アメリカ占領下の小笠原諸島の歴史。もう一人、突然、チェロが弾けなくなってしまった少年がいる。少年は島の人々、自然と交感していくうちに心を回復していく。フリーカメラマンをしているという少年の父親でも最後、伏線を回収しており、大自然の孤島の、厳しくも温かい人の営みが感じられてよかった。
アドセンス336×280レクタングル(大)
関連記事
大家さんと僕 これから 矢部太郎
なんていい話なんだ。泣いちゃったよ。
日本中がほっこりした、カラテカ矢部太郎さんと、彼が住む家の大家さんとのやり取り。
日本中の誰もが、見たことも会ったこともない大家さんに暖かい想いを寄せてい …続きを見る
キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘 西尾維新
西尾維新読者は西尾維新を信用していない。
それはつまらないとかそういう意味ではなく、主人公が抱いている感情や、登場人物たちの発言や、繰り広げられている舞台そのものが嘘である、という意味で。
だから …続きを見る
韃靼疾風録〈上〉〈下〉 司馬遼太郎
司馬遼太郎の作品は小説に限っても多くあるが、そのほとんどが1960年から1980年代の、わずか20数年に書かれている。その最後の小説が『韃靼疾風録』だ。以降、司馬は小説は書かなくなり、随筆か紀行文のみ …続きを見る
上條淳士画集「1983」 上條淳士
僕と上條淳士先生との出会いはビックコミックスピリッツの『エイト』という作品で。
それがハチャメチャに面白くてドハマりして。でもそれは4巻であえなく打ちきりになって。その後に上條淳士という人物について …続きを見る