アワビ、ウナギ、ウニ、ナマコにカニ…高級な海産物がヤクザらによって密漁され、市場に流されていたら…という、知る人ぞ知る漁業と暴力団の関係を暴いた本だ。著者はヤクザを取材するうちに、東電など電力会社を頂点とした、関連会社が連なる原子力発電所の保守作業員にヤクザが関連していると知り、福島で爆発した原発に作業員として潜入するなど、ヤクザを相手に何十年も取材を重ねているルポライターだ。当然のようにこの著書でも築地市場に入り、卸売業者として働く。そうして潜入し、内部に入るからこそ分かってくる事実関係がある。ヤクザも漁業関係者も、原発作業員なども、世間から弾かれた者たちが働く受け皿になっているということだ。
確かに桜木紫乃の戦後まもない北海道・根室などを舞台とした小説「霧(ウラル)」にも、当時国交がなかったソ連の目をかいくぐり、北方領土で密漁したり、アメリカの情報を流す代わりに密漁を黙認させるといった、ヤクザものたちが出てくる。日本海側の寂れた漁港にヤクザ組織があるのも、そうした密漁や、おそらくは覚せい剤のやりとりがあったからだろう。この本にもそうしたヤクザと海、密漁について活写されている。というよりも、ヤクザ組織の成り立ちそのものが、物資や人夫が集まる港湾都市から始まったという大前提が改めて理解できるはずだ。
日本の食、特に高級な海産物はヤクザの密漁によって成り立ち、人々がそれらを求めるとヤクザが儲かると言っても過言ではないのかもしれない。